先日、2010年に地デジへの変更工事のご依頼を受けたお客様の家で、どうにも映りが悪いので・・・と言うご相談を受け、工事の手直しにお伺いしてまいりました。
電話口で大変恐縮そうにお話しされるご主人によると、以下のような経緯があったそうです。

  • 電波の送信が東京タワーから東京スカイツリーに変更になった時に映りが悪くなった
  • 当時、「東京スカイツリー受信相談コールセンター」にて無料点検を行っていたので、そちらに点検を頼んだ
  • 2人組の作業の方が後日お客様宅にて、アンテナの調整などを行った
  • その後も時々映りが悪くなることがあり悩んでいた

状況的にどうしてもこちらでは有料の対応しかできません、という確認をした後、ついに先日点検にお伺いしてきました。
お客様が言うには、以前作業に来た方は長らく試行錯誤したのちに「(今まで映っていた)MXテレビは、ブースターを最大にしても映りません」と行って帰って行ったそうです。

※実際MXテレビは電波送信エリア内であっても、うまく映らないことは多くあるために、弊社でも視聴保証は行っておりません。
ただし、できる限り映るように作業をさせていただいております。

まずは、リビングで電波を測定してみたところ、ものすごく数値が高い!
部屋でこのレベルが出ているということは、ブースターでは定格出力を超えてしまっていて、電波がまともな状態で出力されているとは思えません。
最後に電波の測定データも載せていますが、最初に測った時点ではMXテレビは電波の強さは出ていたものの、電波の質(MER)はかなり悪く、エラー(BER)はMAXの値が出ていました。そのため、測定データには記録されていません。

※ブースターには定格出力があり、出力レベルがそれを超えると、MERやBERが悪くなり、テレビでは電波が弱いときと同じような症状が出て映らなくなったりします。なお、MERやBERの数値が良くても、レベルが強すぎる場合は同様に映らなくなることがあります。

ここで、まずはブースターの調整をしました。
結果としては、これでは不十分だったのですが、地デジの電波についてどの程度の変化となっているか記録しています。
なお、ブースターで調整しているのは地デジの利得(電波をどれだけ強めるか)だけではなく、BSの利得も調整しています。
ここは工事をやっている方でも見落とされることが多いのですが、実はBSの出力が強すぎても地デジの電波に悪影響が出ます。
無料調整に来た方は「BSも弱い」と言っていたようで、BSの利得を最大まで強めていったようです。
更には、高さも高い位置につけ直したということですが、実際に屋根の上では(障害物がない場合は)高さは受信状況に全く影響を与えません。
そもそも、地デジの電波も弱いわけではなく、やっていたのは的外れな処置だったようですね。
大きな測定器を持ってきて、あーでもないこーでもないって言ってました、とのことですが・・・。

実際にアンテナから直接電波を測ってみると、MXテレビはやはり視聴するにはちょっと心許ない状況だったので、アンテナの方向調整を行いました。
すると、電波レベルは若干落ちるものの、MERとBERがかなり良くなりました。
しかし、他の電波が強すぎるため、どうしてもブースターを通すと定格出力を超えてしまい、電波にひずみが生じてしまいます。

※ブースターを通すと、利得調整を最小にした場合でもある程度電波が強くなってしまうため、強すぎる電波の場合はブースターは邪魔者でしかありません。

また、分配数が少ないということもあり、今回は最終的にブースターを外して混合器を設置することとなりました。
万が一のためにブースター本体はアンテナに付けたままにして、ブースター電源ユニットはBSコンバーター電源としてそのまま使っています。
MXテレビは結果としてかなり電波は弱くなりましたが、MERとBERがかなり改善されたため、こちらの方が障害が起きにくいと思います。

※ブースターの利得調整のみではBERが測定不能レベルでした(エラーが多い)。

今回のように、地域によってはMXテレビとその他の放送局とで電波レベルの差が大きく、視聴が困難となる場合もあります。

※MXテレビを強めようとした際に他の放送局が強くなりすぎるなどの可能性があります。

今回ブースターを外すことによって、BSもMERやBERの数値が改善されているのがわかると思います。
いくら高級な機器を用いても、使う人の知識や技術が追い付いていないと全く意味がありません。
もちろん細かい調査などでは高級測定器ではないと困る場合もありますが、一般家庭用の電波調査には最高性能の機械は必要ありません。
高級機ではないとだめだという人には「どういう理由でその機械でないとだめなのか」を聞いてみて、はっきりと答えられない人はその機能を使いこなせていません。「こちらの方が数値が正確なので」などと言う人の知識では信用できませんね。

レベル…(dBuV)  MER…(dB) 調整前 ブースターのみ調整 方向調整とブースター取り外し
チャンネル名称 放送方式 周波数(MHz) レベル MER BER レベル MER BER レベル MER BER
16 MX 地上デジタル 491 x x x 57.9 13.1 x 37.2 24.8 0
21 フジ 地上デジタル 521 97.8 30↑ 0 80.6 30↑ 0 60.6 30↑ 0
22 TBS 地上デジタル 527 97.6 30↑ 0 80.7 30↑ 0 60.5 30↑ 0
23 テレ東 地上デジタル 533 96.6 30↑ 0 79.5 30↑ 0 58.8 30↑ 0
24 テレ朝 地上デジタル 539 98.1 30↑ 0 81.3 30↑ 0 59.9 30↑ 0
25 日テレ 地上デジタル 545 97.1 30↑ 0 79.4 30↑ 0 58.1 30↑ 0
26 Eテレ 地上デジタル 551 95.7 30↑ 0 77.7 30↑ 0 56.2 30↑ 0
27 総合 地上デジタル 557 97.8 30↑ 0 77.3 30↑ 0 56.6 30↑ 0
28 放送大学 地上デジタル 563 85.8 23.5 0 70.8 30↑ 0 49.8 30↑ 0
32 テレ玉 地上デジタル 587 88.5 28.9 0 81.4 30↑ 0 60.2 30↑ 0
BS1 BSデジタル 1049.48 95.7 22.4 0 66.4 25↑ 0
BS3 BSデジタル 1087.84 95.5 22.1 0 65.3 25↑ 0
BS5 BSデジタル 1126.2 93.6 22.1 0 64.3 25↑ 0
BS7 BSデジタル 1164.56 93.2 21.8 0 63.9 23.3 0
BS9 BSデジタル 1202.92 92.4 23.3 0 63.5 23.9 0
BS11 BSデジタル 1241.28 89.9 20.7 0 60.7 25↑ 0
BS13 BSデジタル 1279.64 92 24.1 0 60.7 25↑ 0
BS15 BSデジタル 1318 90 20.7 0 60.4 23.9 0
BS17 BSデジタル 1356.36 89.9 20.7 0 59 23.9 0
BS19 BSデジタル 1394.72 90.7 20.4 0 61.6 24.1 0
BS21 BSデジタル 1433.8 89.9 20.7 0 60 24.1 0
BS23 BSデジタル 1471.44 89.6 22.7 0 60.4 25↑ 0
ND2 広帯域CSデジタル 1613 87.3 19.7 0 59.1 24.1 0
ND4 広帯域CSデジタル 1653 87.8 19.2 0 59.4 22.8 0
ND6 広帯域CSデジタル 1693 87.9 19.7 0 58.1 23.3 0
ND8 広帯域CSデジタル 1733 87.9 18.8 0 58.1 21.6 0
ND10 広帯域CSデジタル 1773 87.9 19.9 0 59.4 22.1 0
ND12 広帯域CSデジタル 1813 89.1 19.9 0 59.5 23.6 0
ND14 広帯域CSデジタル 1853 88.9 19.7 0 58 22 0
ND16 広帯域CSデジタル 1893 87.1 20.6 0 57.5 24.7 0
ND18 広帯域CSデジタル 1933 86.5 18.8 0 56.6 21.5 0
ND20 広帯域CSデジタル 1973 86.7 20.2 0 56.9 21.8 0
ND22 広帯域CSデジタル 2013 85.2 18.8 0 55.1 21.6 0
ND24 広帯域CSデジタル 2053 84 18.5 0 53.6 21 0

この先はなかなかないと思いますが、地デジ移行直前のアナアナ変換工事や地デジ移行時、東京スカイツリーへの移行時の無償点検などでは、現場に出ていた技術者はまさに玉石混交で、多くは素人であったのではないかと感じてしまいます。
孫請けやひ孫請け、さらにもっと中間にマージンを取る会社があることが多く、実際の現場には実に少額のお金しか回ってきません。
そのため、いい技術者がそろわなかったと言う問題があったのだと思います。

また、それがもとで現場では少しでも工事料金を上げるために無駄な施工があったり、逆に時間短縮のための手抜き工事が多くあったように思います。
今回に限らず調子が悪いというお客様の家では、きちんとされていない工事を多く見かけました。
業界の健全化にはいつも頭を悩ませています。